ーー思い出してきた。

もう、出番の時間で行かなくてはならなかった。

でも、手づくりのミサンガ……絶対大切な物だ。

それを無くした彼のことを考えたら、体がすぐに動き急いでキーホルダーを拾って彼を追いかけて呼びとめていた。

『これ、落ちましたよ!』

その背の高い男子は驚いて振り向きすぐに受け取る。

『大事な物みたいだから……』

たしかそんな事を言ったような。ダメだ、何を言ったかまで覚えていない。

『あ、すみません……』

彼の言葉を聞いている時間も心の余裕もなく、私はすぐにその場を離れた。

そんな些細な事、すっかり忘れていた。ううん、あんな必死な状況だったから記憶にも残らなかったのだろう。

「まさか、あの子が安斉くん?」

「うん、オレ」

噛みしめるように、頷く安斉くん。

「顔見てる余裕なかった……」

「そりゃそうだろ、マジで本番直前だもんな」

なんで、忘れてたんだろ。まさか、あの時安斉くんと言葉を交わしていたなんて。