「あー、うっせぇ!」
佐野くんが耳を赤くしながら、プールの中からからかってくる部員達を睨みつける。
それからあたしの腕を引くと、彼らがいるところから離れた。
「ごめん。早瀬まで濡れちゃったな」
「平気。これくらい大丈夫だよ」
髪の毛についた水滴を手の平で払うと小さく首を振る。
制服はそこまでだし、髪もたいして濡れてない。
だけど佐野くんは肩に掛けていたタオルをとると、ふわりとあたしの頭の上に被せてくれた。
「ちょっと濡れてるけど、ちゃんと拭けよ。風邪ひくから」
「ありがと」
笑いかけると、佐野くんの顔がすっと近づいてくる。
「佐――…」
名前を呼ぼうとしたあたしの声が遮られる。
頭から被されたタオルのその下で、佐野くんがこっそりと触れるだけのキスをした。