選抜試験はふたりずつ、ひとり一コース使って同時に泳ぐ形式を取って進んでいく。
何人かの部員が泳いだあと、いよいよ佐野くんの順番がやって来た。
佐野くんが飛び込み台に立つ。
同じ組で一緒に泳ぐのは、いつか佐野くんと親しげに話していた高崎くんだった。
両手にストップウォッチを一つずつ手にした市川先生が、飛び込み台に並んだ佐野くん達を見た。
二人の準備が整ったのを確認して、市川先生が笛を構える。
「よーい」
佐野くんが姿勢を低くした。
次の瞬間、市川先生が咥えた笛の音が短くなる。
それと同時に、佐野くんと高崎くんはプールに向かって勢いよく飛びこんだ。
ゆったりとした余裕のある手足の動きで、佐野くんは水の中をぐんぐんと前に進んで行く。
最初の10メートルで、佐野くんは一緒に泳いでいる高崎くんよりも身体ひとつ分くらい前に出ていた。
「速いな……」
ストップウォッチを見る市川先生が小さく呟く。
あたしは両手を握り締めると、緊張した面持ちで佐野くんの泳ぎを見守った。