「早瀬、よくやったな。文句なしで合格だ」

顔を上げたあたしを見て、市川先生が大声で叫ぶ。


やった……!

あたし、25メートル泳ぎきれたんだ……

あたしは壁に触れた手を何度も握ったり開いたりした。


「早瀬。頑張ったな」

泳ぎきれた余韻に浸っていると、頭上から佐野くんの声がした。


「佐野くん!あたし、泳げたよ」

嬉しくて声が弾む。


「佐野くんも、頑張ってね」

そう言うと、佐野くんはにっこり笑って力強く頷いた。

あたしのテストが終わってしばらくすると、佐野くん達水泳部の選抜試験が始まった。


あたしは制服に着替えると、プールサイドのベンチに座って佐野くんの順番が巡ってくるのを祈るような気持ちで待った。

佐野くんは50メートル自由形という種目で選抜試験を受ける。


短距離だからスピードが勝負。

佐野くんがそう言っていた。