水の中に顔をつけると、市川先生が吹く笛の音が短く鳴った。

あたしは心を落ち着かせると、渾身の力を込めて背後の壁を蹴る。

前回のテストのときと同じように、最初は壁を蹴ったときの力だけですーっと前へと進んだ。

進む速度が落ちると、ゆっくりと腕と足を動かしながら前へと進む。


水中の音だけを聞きながら、あたしは前だけを目指してゆったりと泳いだ。


前回溺れてしまった20メートル地点で、やっぱり身体の疲れを感じる。


でもあたしは泳ぐことをやめなかった。


プールの床に残り5メートルを示すラインが見えたとき、佐野くんの顔を思い出す。


あと少し。


佐野くんの顔を思い出しながら、最後の力を振り絞る。


残り5メートルのラインを抜けて何回か腕を大きく動かしたとき、手の平がプールの壁に触れた。

その感触を確かめてから、水面に顔を上げる。