「早瀬?」
視線の先で、佐野くんの唇があたしを誘うように、艶やかに形よく動く。
その動きに触発されたあたしは、無意識のままに佐野くんに向かってとんでもないことを囁いてしまった。
「してほしい……」
その言葉が唇から漏れたとき、あたしは自分が口にした言葉の意味を全く自覚していなかった。
「は?してほしいって?」
怪訝そうな顔をした佐野くんに問われて、あたしはようやく自分が口走った言葉の意味を理解する。
慌てて両手で口を押さえると、佐野くんがあたしを窺うように見あげた。
「もしかして、人工呼吸?」
佐野くんにその言葉を言われて、あたしは口を押さえたまま真っ赤になった。
こんなに赤くなっていたら、何も言わなくても佐野くんの問いかけを肯定していることがすぐにばれてしまう。
「早瀬。自分で言っといて照れんな。つられるだろ」
佐野くんの方に視線を向けると、彼の顔も少し赤くなっていた。
それは多分、沈みかけの太陽が照らす光のせいではないと思う。



