補習がなくなったら飛び上がって小躍りしたくなることはあっても、残念に思うことなんて絶対ない。
嫌味発言だ、と思ったら千亜希がため息まじりにつぶやいた。
「明日からもう見れないのかぁ。佐野くん」
「佐野くん?」
聞き返すと、千亜希はあたし達が補習で泳いでいた隣のコースを指差した。
「知らないの?水泳部の佐野 翠都(サノ スイト)」
「佐野 翠都?」
「そう。うちの学年の男子の中ではわりと有名だよ?水泳部の爽やかイケメン」
千亜希が指差した方に視線を向けると、そこで一人の男子生徒がクロールで25メートルのプールを何度も往復していた。
スピードはあるのに、まるで水の中を飛んでいるみたいに余裕のあるゆったりとした腕と足の動き。
彼はプールの透明な青い波間を漂うように、気持ち良さそうに泳いでいた。
あたしの泳ぎとは大違い。