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「早瀬、始めるぞ」
30分後、市川先生の声を合図にあたしはプールの中に身体を沈めた。
「笛が鳴ったらスタートだからな」
緊張した面持ちで頷いて、市川先生を見上げる。
そのとき、市川先生の後ろに佐野くんが立つのが見えた。
テストを受けるあたしの姿を見届けてくれるんだろうか。
肩にタオルをかけて静かにあたしを見下ろす佐野くん。
市川先生の笛の合図を待ちながらそっと佐野くんを見ていると、気づいた彼がにこりと笑った。
その笑顔に、心臓がどくんと大きく跳ね上がり、慌てて視線を逸らす。
ドクドクと激しい音をたてる心臓。
テストの直前に、あたしの心拍は無駄に上がってしまっていた。
ダメだ。テストに集中しないと。
深呼吸をして、プールの壁に背中をつける。
テストが終わるまでは、できるだけ佐野くんの顔を見ないようにしよう。
必死で心臓を落ち着かせて顔をあげると、プールサイドであたしの様子を窺っていた市川先生がようやく首にぶら下げていた笛を咥えた。
息を吸った市川先生の肩が小さく上がる。
始まる。
身体にピリッと電流のような緊張が走る。



