プールの真ん中で立ちすくんでいると、隣のコースから佐野くんに声をかけられた。


「早瀬。どうした?」

振り返ると、佐野くんがコースを仕切るロープに腕を乗せてあたしの方に身を乗り出してくる。


「さっきからプールの真ん中に突っ立って青ざめてるけど、大丈夫?」


彼の言葉に、胸で膨れ上がった緊張が今にも破裂しそうになる。


「佐野くん。どうしよう……30分後にテストだって……」

泣きそうな声で訴えかけると、佐野くんが呆れたように息をついた。


「なんだ、そんなこと?」

「そんなことって……」


あたしにとっては一大事だ。

だから、こんなにも緊張してるのに……

唇を尖らせてふて腐れていると、佐野くんが両手を口元にあてて大きな声を出した。


「頑張って絶対合格しろよー」

「佐野くん……それ、めちゃくちゃプレッシャー……」


ぼやきながら肩を落とすと、佐野くんがにやりと笑った。


「いいじゃん。テストが終わったら、楽しい夏休みが待ってるんだし。まぁ、俺としてはプールのあと一緒にアイス食べる奴がいなくなるのは淋しいけど」


え……!?

一緒にアイス食べる奴がいなくなるのは淋しい……?

佐野くんの最後の言葉がやけに鮮明に耳に焼きつく。


「佐野くん。それ、どういう……」

聞き返そうとしたあたしに向かって、彼がまたにやりと笑う。