「佐野くんも試験受けたらいいのに……あんなに綺麗に泳げるんだから、もったいないよ」
「勝手なこと言うなよ」
あたしの口から溢れた同情的なつぶやきに、佐野くんがピシャリと言葉を返す。
感情を押し殺したような低い彼の声。
拒絶的な彼の声に、あたしは小さく震えて言葉を失った。
試験を受けたらいいのに、なんて。気安く口にするんじゃなかった。
試験を受けたいのに受けれなくて悔しい思いをしてるのは佐野くんなのに。
無神経だ。
あたしは唇をかたく閉ざすと俯いた。
「ごめん……」
しばらくして、佐野くんがぽつりとつぶやいた。
謝らないといけないのはあたしのほうだ。
俯いたままゆっくりと首を横に振ると、佐野くんがあたしの頭に手をのせた。
「早瀬は自分のテストのことだけ考えてろよ」
視線を上げると佐野くんがにこりと笑いかけてくる。
彼のその笑顔からはいつの間にか淋しさは消えていた。
だけど、あたしの胸は切なくきゅんと傷んで。
いつになく、息苦しかった。