やっぱり、聞いたらまずかったかな……
佐野くんの表情を翳らせてしまった自分の発言に後悔し始めていると、彼があたしを見て淋しそうに笑った。
「俺、半年前にバイクにぶつかられて怪我してさ。本調子じゃないから、今年の試験は受けないつもりなんだ」
さっき他の部員の人から聞いた話が、佐野くん本人の口から告げられる。
「でも、怪我はもう治ってるんでしょ?」
「一応治ってはいるけどタイムは去年よりも格段に落ちてるし、それに長時間泳いでるとときどき痛むっていうか……」
佐野くんが庇うように肘の辺りを撫でる。
そうしながら、彼の瞳は淋しそうに遠くを眺めていた。
見た目には、何の違和感も感じなかった。
佐野くんの泳ぎは、とても綺麗で完璧に見えた。
だけど、彼にはそうじゃなかったんだ。
あたしは淋しそうな顔をして笑う佐野くんをじっと見つめた。
食べかけのアイスキャンディから溶け出したオレンジ色の水滴が、佐野くんの手元からぽたぽた落ちる。
それが淋しそうな顔の佐野くんの代わりに泣いているみたいで、とても悲しかった。