隣で笑う佐野くんの顔は明るく、少しの曇りもない。
あたしはそんな彼の横顔を見つめながら、ふとさっき聞いた話を思い出した。
県大会の選抜試験。
他の部員がそれに向かって練習に励む中、それを受けられないのに毎日練習に来るのは辛いと思う。
明るい笑顔の下で、佐野くんは何を想っているんだろう。
あたしは唾を一つ飲むと、緊張した声で佐野くんの横顔に問いかけた。
「佐野くんはテスト受けないの?」
「へ?」
佐野くんが不思議そうな顔であたしを見つめ返す。
「県大会の選手を選ぶ、選抜試験があるんでしょ?さっき他の部員の人が言ってた」
「あぁ」
笑っていた佐野くんの表情が翳る。
雲に覆われた太陽みたいな、沈んだ表情。
あたしの胸が、チクリと傷む。
いつもまぶしいほどの笑顔をあたしに向けてくれていた佐野くん。
そんな彼が沈んだ表情を見せるのは、これが初めてだった。