透明な青、揺れるオレンジ



「翠都、半年くらい前に歩道に突っ込んできたバイクと接触して、腕を骨折したんだ。リハビリしてもう泳げるようになってるんだけど、去年ほどはなかなかタイムが上がらないみたいでさ」


「そうそう。もう調子は戻ってるし、イチ先は選抜試験だけでも受けてみろって言ってるんだけど、翠都自身は今の自分の泳ぎとかタイムに納得いってないみたいなんだよな」


「そうだったんだ……」


佐野くんに、そんなことがあったなんて……


話を聞いたあたしは、ショックを受けた。


選抜試験が近い今の時期、本当なら少しでもタイムをあげるために一生懸命練習しないといけないのに。

そんな大切な時期にあたしなんかに泳ぎを教えてくれている佐野くんは、県大会への出場を初めから諦めているんだ。


あんなに綺麗に泳げる佐野くんだから、県大会に出られないことはきっとすごくショックなはずなのに。

あたしはときどき太陽みたいにまぶしい佐野くんの笑顔を思い出して、切なくなった。

もしあたしが佐野くんの立場だったら、辛いときに絶対あんな風に笑ったりできない。