それからしばらく練習を続けていると、市川先生がプールサイドから声をかけてきた。
「早瀬。今日はもう終わっていいぞ。その調子なら、補習の終わりも近そうだな」
「ほんとですか?」
よかった。あたし、だいぶ泳げるようになってきてるんだ。
市川先生の言葉に、少し自信が湧いてくる。
こんなに順調に泳げるようになるなんて、佐野くんのおかげだな。
あたしはプールから上がると、プールサイド脇のベンチに置いていたタオルを肩からかけて、プールに視線を向けた。
あたしが練習していた隣のコースでは、佐野くんがまだ泳ぎ続けている。
しばらく見つめていると、それに気づいたらしい彼が水面から顔を出してあたしを見上げた。
「早瀬。今日はもう終わり?」
「うん。ありがとう」
プールの中の佐野くんに笑いかけると、彼は少し首を傾げてから勢いよくプールサイドに上がってきた。
その衝撃で、あたしが立っているところまで水しぶきが飛んでくる。
手の平で飛んでくる水しぶきから顔を庇っていると、佐野くんが頭を振って水滴を払いながら笑った。



