緊張のあまり、佐野くんの言葉に反応できずにいると彼が手の平であたしの後頭部を軽く押した。
急に顔を水の中に押し付けられて、今日二度目となるプールの水を飲む。
びっくりして顔を上げると、佐野くんが眉を顰めた。
「水に顔つけろって。聞いてた?」
「は……はい!」
佐野くんにきつい口調で言われて、大人しく指示に従う。
すると、背後に立つ佐野くんがあたしの手首を掴んで片方ずつの腕を前から後ろへと大きく回し始めた。
「大きく水を掻いて、足の横を通って、最後はすっと戻す」
佐野くんは、あたしの腕の動きにそんな解説を加えた。
佐野くんが後ろに来たのは、あたしに腕の動かし方を教えるためだったんだ……
すぐにそのことに気付いたものの、ときどき背中を擦れていく佐野くんの体温にドキドキしてしまう。
「早瀬。腕が足の傍を通ったときに、顔を横に向けて息継ぎしてみて」
腕が足の傍を通ったときに息継ぎ……
あたしは佐野くんに掴まれたままの腕にドキドキしながら、彼の指示通り顔を横に傾けた。



