プールの壁を蹴ると、昨日佐野くんに教えられたとおりゆったりと足を動かしてバタ足をする。
手の動きは何が正しいのかよく分からなかったから、腕を回してとりあえず必死に水を掻いた。
そして、適度に息継ぎをする。
その度に身体が反れて、一回一回背中からひっくり返りそうにだった。
何とか佐野くんのところまで足をつかずにたどり着けたけれど、その代わり身体がもの凄く疲れていた。
水面から顔を出したあたしを見て、佐野くんが渋い顔をする。
そして、あたしにきつい言葉を突きつけた。
「早瀬。そのままだったら、50メートルなんて絶対泳ぎきれないぞ」
「え……」
ショックを受けた顔をすると、佐野くんが苦笑いする。
「ちょっと、手貸して」
佐野くんはあたしの後ろに回ると、唐突にあたしの手首を掴んだ。
佐野くんの身体が今にも背中にくっつくくらい近くにあって、あたしは目を白黒させる。
鼓動が高鳴っているあたしの耳元で、佐野くんの声が囁くように聞こえた。
「水に顔つけて」