「急に沈められたらどうなるかなぁと思って」
どうなるかなぁって……
「あたしを殺す気ですか……?」
「でも、だいぶ水に慣れてきてるじゃん。じゃぁ、今日はクロールの腕の動きを練習するからな」
佐野くんはあたしの発言をさらりと流すと、両手で前髪を掻きあげた。
それ以上文句を言えなくなってしまったあたしは、不満気に頬を膨らまして口を閉ざす。
佐野くんが昨日あたしに向けてくれた笑顔が嬉しかったから……
ものすごくどきどきさせられたから……
だから、佐野くんに会える今日の練習が朝から楽しみだったのに。
佐野くんは、泳げないあたしをおもしろがってるだけなんだ。
そう思うとがっかりして、ため息が漏れた。
佐野くんはため息をついているあたしの横を泳いで通り過ぎると、十数メートル進んだところで止まって振り返った。
「早瀬。ここまでクロールで一回泳いで来れる?バタ足は昨日教えたことを忘れるなよ」
「はーい」
がっかりしているあたしをよそに、佐野くんの練習は始まる。
あたしは間延びした返事をすると、水に顔をつけた。