翌日、あたしはいつもより早めにプールに着いた。


「早瀬。張り切ってるなぁ」

市川先生にそんな風に声をかけられ、あたしはいそいそとプールの中に身体を沈める。

隣のコースを見ると、佐野くんはまだ来ていなかった。

せっかくいつもより早く来たのに。

無人のコースを見てため息をつく。


「早瀬。今日は早いんだな」

一人で先に練習を始めようと水面に顔をつけたとき、プールサイドから佐野くんの声がした。

顔を上げると、佐野くんが勢いよくプールに飛び込んできた。

すぐ傍で大きな水しぶきが上がって、あたしの傍で大きな波紋が広がった。

上からそれを覗き込むと、波紋の真ん中に佐野くんのオレンジ色の髪が見える。

いつ浮かんでくるのかと思ってそのオレンジ色をぼんやり眺めていると、身体が突然水中に引きずり込まれた。


「……!?」

何が起こったか分からず、水中で声無き声を上げる。

水の中で必死にもがいて何とか水面に浮かび上がると、目の前で佐野くんがケラケラと声を立てて笑っていた。

笑う佐野くんを見て何が起きたか理解したあたしは、咳き込みながら彼を睨んだ。


「何するのよ!!」

プールの塩素で喉が痛い。

怒っているあたしを見て、佐野くんがますます可笑しそうに笑う。