「碧、元気出して」
一緒に補習を受けているクラスメイトの千亜希が、げっそりとした顔でプールから上がってきたあたしの肩を叩く。
「ムリ……」
あたしは千亜希の顔をちらりと見上げると、肩を落として呟いた。
「イチ先、水泳部の顧問だからって厳しすぎだよ」
あたしはそうぼやくと、プールサイドに立って笛を吹いている体育教師の市川を恨めしげに見つめた。
あたしは別に、特別運動神経が悪い方ではない。
だけど、水泳だけは昔から苦手でどうやっても泳げなかった。
毎年夏になると、体育の授業が嫌で仕方ない。
水泳の実技試験に合格できないあたしは、毎年必ず夏休みに補習を受けるハメになり、毎年必ず一番最後まで再試験に合格できないからだ。
当然のように去年も補習に呼ばれたあたしは、結局最後まで再試験に合格できなくて、体育の担任教師に大量のレポートを提出することで何とか再試験を合格にしてもらった。
去年の体育の担任は市川先生ではなく、若くて生徒に比較的甘い先生で、あまりに泳げないあたしを憐れんでくれたんだと思う。



