透明な青、揺れるオレンジ





「早瀬。お前、少し泳げるようになってるじゃないか」


あたしが何往復目かの練習に入ろうとしたとき、プールサイドから市川先生が声を掛けてきた。


「そうですか?」

嬉しくて、満面の笑みで市川先生を見上げる。


「あぁ、よく頑張ったな。今日はもうあがっていいぞ」

「はい」

あたしは頷くと、隣のコースを振り返った。


佐野くんにお礼を言わないと。


そう思ったのに、隣のコースに佐野くんの姿はなかった。


無人のコースで、水面だけが大きな波を打っている。


「イチ先、佐野くんは?」

市川先生を見上げると、彼は小さく首を傾げた。


「さぁ?そういえばさっきから見かけないな。今日の午後からは自主練だから帰ったんじゃないのか?」


それを聞いて、あたしは何だかがっかりしてしまった。

最後にちょっと泳げるようになったところを見て欲しかった。

ていうか、泳ぎ方教えるとか言っといて最後まで責任持たずに放置していくなんて。

あたしが泳げるようになるかなんて、どうでもよかったのかな。

もしくは体のいい暇つぶしだった、とか。


「声くらいかけてくれればいいのに」

あたしは波打つ隣のコースに向かって不貞腐れた声で呟くと、プールから上がった。