「あー、はいはい。邪魔して悪かったですねー」
わざとらしいくらい抑揚のない声でそう言った高崎くんは、「何さんか知らないけど、練習頑張ってねー」とあたしに向かって手を振りながら歩き去って行った。
佐野くんは高崎くんが行ったのを確認すると、あたしの前に向かい合うように立って小さく手招きをした。
「早瀬、ちょっとこっち来て」
「え?うん……」
泳ぐにあたって、追加アドバイスでもあるのかな。
言われるままに、一歩佐野くんに近寄ると、彼があたしの頭に何か被せた。
「あ、すげぇゆるい。お前、頭ちっさいな」
佐野くんが笑って、被せたものをすぐに外す。
それは、黒のゴーグルだった。
さっき佐野くんに向かって投げられてきた黒い物体は、どうやらこれだったらしい。
「これくらいでいけるかな……」
佐野くんが小さくつぶやきながら、ゴーグルのベルトを引っ張って長さを調整する。
その様子をじっと眺めていると、ベルトの調整を終えた彼がにこっと笑った。



