「佐野くん」

唇が触れたところを指先でなぞって顔を赤らめていると、佐野くんがにやりと意地悪く笑う。


「早瀬が物ほしそうな顔で俺を見てくるから」

「そ、そんなこと――…」

からかうように笑う佐野くんに反論しようとしたとき、唇が塞がれた。

そっと触れるだけのキスをしたあと、佐野くんがあたしの唇に人差し指をあてて至近距離で笑う。


「早瀬、声デカい」

すぐ近くにある爽やかな笑顔と優しい声が、眩暈を起こしそうなほどにあたしをくらくらさせる。


「じゃぁ俺、練習に戻るから」

タオルの上からあたしの頭をぽんっと撫でると、佐野くんはプールへと戻っていった。

再び練習へと戻った佐野くんは、相変わらず綺麗なフォームでプールの中を漂うようにゆっくりと泳ぎ始める。