「早瀬、向こうに俺のタオル置いてるからそれ使って拭いて」

佐野くんはプールサイドの端にある荷物置き用のロッカーを指差した。

あたしは苦笑いを浮かべながら頷くと、ロッカーの方に歩いていく。

ロッカーには部員の人達の荷物がごちゃ混ぜに置いてある。

佐野くんの荷物を探していると、背後で人の気配がした。


「わかった?」

声がして振り返ると、佐野くんが額にかかる髪の毛を手の平で掻きあげるところだった。

その仕草をドキドキしながら見つめているあたしの傍で、佐野くんが手を伸ばして自分のタオルをつかむ。


「あ、これだ」

佐野くんはあたしの前に向き合うようにして立つと、手にしたタオルで髪の毛や肩の水滴をそっと払ってくれた。

一通り水滴を払ったあと、佐野くんがあたしの頭の上にふわりとタオルを被せる。


「自分でもしっかり拭いとけよ。風邪ひくから」

「ありがとう」

タオルの両端をつかみながら佐野くんを見上げる。


にっこりと笑いかけると、佐野くんがあたしの方に少し顔を近づけてきた。

ほとんど反射的に目を閉じると、佐野くんの唇が優しく額に触れる。