「早瀬さん。ここ、家と逆方向でしょ?見に来るの、面倒じゃないの?」

10月半ばを過ぎて、水泳部の練習場所は学校のプールから市営の温水プールに移った。

ただ、毎日ではなくて週に数回。

2時間ほど貸してもらう。


そのときはあたしも、たまにだけどプールに練習を見に行った。

市の温水プールは一部の壁がガラス張りになっていて、冬でも晴れていればそこから太陽の光が差し込んでくる。

プールサイドのベンチに座って、窓から差し込む光で反射するプールの水面を見つめていると、肩にタオルをかけた高崎くんがあたしの隣に腰掛けてきた。


「うん。練習見てるの楽しいから」

「練習って言うよりも、翠都でしょ」

あたしの視線の先を辿りながら、高崎くんが笑う。

そこには、余裕のある綺麗なフォームでゆったりと泳いでいる佐野くんの姿があった。