その瞬間、外界の音が少し遠ざかって、世界から遮断されたような気分になる。
するとすぐに息が苦しくなって、水から逃れたくなった。
顔をあげようと動くと、佐野くんが水中であたしの手をぎゅっと握る。
そのことに驚いてビクリとしたあたしの鼻にコポリと水が入った。
佐野くんの手を掴んだまま、水の中焦ってもがく。
早く顔をあげないと。
溺れちゃう。
子どものときの恐怖が脳裏にすっと蘇って、鼓動が不安と焦りで速くなる。
「早瀬。ゆっくりと息吐いて。落ち着いて顔上げて」
そのとき、水中のあたしの耳に佐野くんの声が届いた。
息吐く……、そんな余裕ない。
「早瀬。床に足ついてるし、大丈夫だから。ゆっくり顔あげろよ」
また佐野くんの声がして、手が強く握られる。
あたしはその手に縋るように夢中で握り返すと、固く目を閉じたまま勢いに任せてガバッと顔をあげた。
水からあがると佐野くんと繋がった手を振り切るように離して、手のひらで顔を拭う。
目を開けると、佐野くんがあたしの顔を見て呆れたように笑った。
「早瀬、焦ったら余計うまくいかないよ?俺、絶対手離さないって言っただろ?大丈夫だから、落ち着いて水の中で息吐いてみな」
佐野くんに促されて、もう一度水に顔をつける。



