「痛い」
あたしは佐野くんにつかまれた手をほどくと、きつく瞼を閉じ、背中を丸めて手の平で左胸を押さえた。
「え、どこが?」
心配そうな佐野くんの声。
そんな声を聞かされると余計に胸が締め付けられて苦しくなった。
「痛い、すごく痛い」
「早瀬?」
佐野くんが焦ったようにあたしの肩を揺さぶる。
けれどあたしの胸の痛みはどんどんひどくなるばかりで、どうやったって治まりそうもなかった。
「佐野くんのせいだから……」
「は?」
つぶやくと、佐野くんが困ったように眉根を寄せる。
「あたしは佐野くんのことが好きなのに、佐野くんはそうじゃなくって。ずっと冷たい目であたしを見てたくせに、今は優しい声で話しかけてくるし。ちゃんと話したいのに、そんなチャンスくれないし……だから、佐野くんのせいで痛い。ここが、ぎゅぅってすっごく。痛い――…」
左胸の上で拳を強く握る。
そうすると、また涙が込み上げてきた。



