「早瀬!止まれって」
走りながら頭を左右に振って、追いかけてくる佐野くんの声を聞かないようにする。
だって聞きたくない。
立ち止まったら、佐野くんはきっとあたしにこう言うでしょ。
「ごめん」って。
それでこんなふうに言葉を続けるんだ。
「奈緒のことが好きになった」って。
そんなことを考えていたら、走りながら涙が溢れ出してきた。
ついでに鼻水も出てきそうになる。
「早瀬!お前、マジで止まれ!」
走りながら腕で目と鼻を拭ったとき、後ろからまた佐野くんの声がした。
「碧!!」
耳に届いた佐野くんの言葉に、少し違和感を感じる。
それが何かを考えかけたとき、足がもつれてつまずいた。
体勢を立て直そうとしたけれど、涙で滲む視界とパニックになっている思考が邪魔をして、よろけながら前に倒れこむ。
そしてそのまま、崩れるように膝から地面に落ちた。
「痛い……」
着地した場所に落ちていた小石で擦れて、右膝と両手の平からうっすらと血が滲む。



