あたしが困っていると、千亜希が机に肘をつきながら廊下に立っている高崎くんにちらっと視線を向けた。
「碧、誘われてるよ。熱烈に」
「千亜希!」
意地悪くそんなことを言ってくる千亜希を軽く睨んでいると、高崎くんがまた大声で話しかけてきた。
「早瀬さん、待ってるから。翠都も」
高崎くんは一方的にそう言うと、あたしに大きく手を振って走り去っていく。
高崎くんは『翠都も』と言ったけど、佐野くんはきっとあたしなんて待ってない。
小さくため息をつくと、千亜希が頬杖をついてあたしを見上げながらにやりと笑った。
「碧、モテモテじゃんか」
「そうじゃないって」
横目で千亜希を睨むと、彼女が笑いながら立ち上がる。
どこへ行くのかと思ったら、教室の一番後ろの窓を開けてそこからほんの少し身を乗り出した。
「碧。あたし、水泳部の練習見てから帰りたい」
千亜希があたしを振り返ってにこっと笑う。



