千亜希が指差すほうに視線を向けると、町村さんがプールサイドに上がってきた佐野くんにタオルを手渡していた。
タオルを手渡したあとも、彼女は佐野くんの傍を離れない。
教室からは彼らの表情まではよく見えないけれど、時折佐野くんのオレンジ色の髪が揺れる。
きっと、二人で話して笑っているんだと思う。
あたしは毎日切ない気持ちで教室から佐野くんのことを見てるのに。
佐野くんは町村さんが傍にいれば笑っていられるんだ。
町村さんは長い時間を彼と共に過ごしてきた幼なじみで、あたしは付き合い出して数ヶ月の彼女。
きっと、佐野くんにとっての重みが違う。
そう思ったら不意に涙が込み上げてきそうになった。
プールに背を向けて、ツンとする鼻の下を指先で押さえる。
そうやって涙を堪えていると、あたしの隣に腰掛けていた千亜希が立ち上がった。
「あたし、そろそろ帰るね。碧はもうちょっとここから練習見ていきなよ。佐野くん、また泳ぎ始めたよ」
千亜希は俯いているあたしの頭をぽんっと撫でると、手を振って教室から出て行った。



