「何だよ、あいつ。いつも爽やかなくせに、今日はやけに感じ悪くない?」

歩き去って行く佐野くんの背中を見つめながら、高崎くんが顔をしかめる。


「うん」

せっかく笑ってくれたのに、佐野くんをまた怒らせてしまったみたいだ。

どんどん遠くなっていくオレンジ色の髪を見つめながら、あたしはどうしようもなく切なくなった。


「早瀬さん。俺は部活に顔出すけど、一緒に行く?」

佐野くんが行ってしまったあとに高崎くんがプールへと誘ってくれたけど、あたしは断った。

きちんと話ができていないのにプールに見学に行っても、邪魔になるだけだと思った。

それに、町村さんにはしばらく顔を見たくないって言われてる。


あたしは自分の教室に戻ると、窓際の一番後ろの席に腰掛けた。

そこからは運動場の片隅にあるプールが見える。

目を凝らすと、プールの水面を揺らす波の合間に時折オレンジ色がちらついて見えた。

近くでは見られないから、教室から大好きなそのオレンジ色を見つめる。

オレンジ色が波の間をちらつく度に、あたしの胸は苦しくなった。