透明な青、揺れるオレンジ



するどいな、と思った。

今まで毎年水泳の授業を受けてきて、毎年補習を受けさせられてきたけど、どの先生にも「水が怖いのか」なんて訊かれたこともなかった。

佐野くんはあたしの泳ぎを一瞬見ただけなのに、それに気がついたんだ。


「小さい頃、ちょっと嫌な思い出があって」

「そうなんだ」

俯く横顔に、佐野くんの視線を感じる。

だけど彼はそう言うだけで、嫌な思い出の内容には追求してこなかった。

それを誰かに話したいと思ったこともないけど、聞かれなかったらそれはそれで気持ち悪くて。

あたしが水が苦手なことに気づいてくれた佐野くんに、その理由を少し言いたくなった。


「幼稚園に上がる前くらいかな。お兄ちゃんと一緒にお父さんにプールに連れて行ってもらったときのことなんだけど。浮き輪に乗ったあたしをお父さんが引っ張ってくれてて、そのそばでお兄ちゃんが泳いでたの。お父さんがお兄ちゃんにちょっと視線を向けてあたしの浮き輪から手を離したときに、ふざけて遊んでた高校生くらいの男の子たちが急にぶつかってきてね。あたし、浮き輪ごとひっくり返っちゃって溺れかけたの。それから、プールの床から足を離して泳いでるとなんとなく不安で怖くって」