泣きそうになりながら水面から顔をあげると、鼻と口から入ってきた水のせいでひどく咳き込んでしまった。
おかげで、泣きそう。じゃなくて、本当にうっすらと目に涙が浮かぶ。
「大丈夫か?」
いつまでも咳き込むあたしに呑気な声音で問いかけてくる佐野くん。
そんな彼を横目に、彼にあたしの補習を任せた市川先生を恨んだ。
大丈夫なわけないよ。死ぬかと思ったし。
手の甲で唇を拭って、佐野くんを睨む。
すると、あたしの顔を少し心配気に覗き込む彼と目が合った。
濡れたように揺れる彼の瞳。
それに見つめられて、思わずドキリとする。
無理やり水に沈められてムカついていた怒りも忘れて視線を逸らすと、そのタイミングで佐野くんが口を開いた。
「早瀬、もしかして水苦手?」
問いかけられて、またドキリとした。
「早瀬の下手くそな泳ぎ見てても思ったけど、一刻も早く水面から顔出したくて焦ってる。そんな感じだった。今も、ちょっと水に顔押し付けただけですごい慌ててるし。水、怖いの?」



