「早瀬。ちょっと来て」

「え、はい」

クラスメート達の視線を一斉に浴びながら、佐野くんがあたしの腕を引っ張っていく。


佐野くんは「ちょっと来て」と言ったきり、あたしのことを一度も振り返らずに無言で廊下を歩き続けた。

そして人気の少ない体育館の裏手まできたところであたしを振り返る。

振り返った佐野くんはいつになく険しい表情を浮かべていた。


「佐野くん?」

戸惑い気味に名前を呼ぶと、佐野くんが怖い目をしてあたしを見つめながら口を開く。


「昨日、奈緒に聞いたんだけど……」


奈緒――?

佐野くんの口から飛び出したその名前にドキリとする。


昨日町村さんを保健室に連れて行ったあと、何かあったのだろうか。

黙って佐野くんを見つめ返しながら次の言葉を待っていると、彼が突然思ってもみないことを口にした。