透明な青、揺れるオレンジ



無言で引き寄せられるから、何事かと思って変なこと考えちゃったじゃない。

無駄な勘違いをしたあたしはそんな自分を恥ずかしく思いながら、プール壁の縁を掴む両手をじっと睨んだ。


「じゃぁ、顔つけて」

そんなあたしの耳に、佐野くんの指示が飛んでくる。

顔、ね。

あたしは両腕の間で揺れる水面を無言でじっと見つめた。

あたしが泳ぐのが苦手な要因は、たぶんここにもある。

水面を見つめながら、数回深呼吸。

深く息を吸っては躊躇い、また深く吸っては躊躇い。

顔を水につけるタイミングを測る。


「ほら。早く」

だけどそうしていつまでもまごついているあたしに痺れを切らしたらしい。

その言葉と同時にあたしの後頭部をつかんだ佐野くんが、半ば強引にあたしの顔を水に沈めた。

ずぶずぶと。心の準備もなく水の中に顔を押し付けられて、プールの水を大量に飲みそうになる。

壁の縁を掴んでいた手をバシャバシャと水面で狂ったように動かして、必死で佐野くんの手から逃れる。