そのときのあたしは、ただ大切なものを取り戻したいだけだった。
けれど、焦って動いたあたしの肩が町村さんに当たってしまう。
感触としては、それほど強くぶつかったとは思えなかった。
それなのに、町村さんの表情は歪み、彼女の身体がプールの方へと傾く。
落ちる――
頭では瞬時にそう思ったのに、あまりに急なことでうまく身体が動かなかった。
傾いた町村さんに手を貸すこともできないままに、彼女の身体が大きな水しぶきをあげてプールの中に落ちる。
そして、水面を見上げたまま沈んでいく。
「町村さん!!」
「奈緒!?」
あたしの叫び声が聞き覚えのある誰かの声と重なる。
どうしていいかわからず青くなるあたしの前で、その人がプールの中に飛び込んだ。
プールの表面に大きな波紋ができ、その真ん中でオレンジ色がぼやけて見える。
息を飲んでそのオレンジ色をじっと見つめていると、町村さんを抱きかかえた佐野くんが水面に浮かび上がってきた。



