「早瀬先輩、スマホ落ちそう」
「え?」
町村さんを振り返ったとき、彼女があたしのスカートのポケットに手を伸ばしかけていた。
オレンジ色のストラップとスマホが半分くらいポケットからはみ出ているのが見えて、あたしは反射的に腰を捻る。
それとほぼタイミングで、町村さんがあたしのストラップをつかんだ。
たぶん彼女は、落ちかけているスマホを救済してくれようとしたんだと思う。
あたしが余計なことをしなければよかったのに、そう思ったときにはもう遅くて。
ブチッと糸が切れる小さな音がして、スマホからストラップが引きちぎられた。
「あ」
スマホは落ちずに済んだけど、ストラップは糸が千切れて町村さんの手の中にある。
佐野くんにもらったストラップ――
大事なものが千切れた。
同時に、あたしの心も強い力で無理やりふたつに引きちぎられたような。そんな衝撃を受けた。
一瞬頭の中がパニックになって、町村さんに握られたストラップを取り戻そうと夢中で手を伸ばす。



