「佐野くん」
「ん?」
名前を呼ぶと、彼があたしを抱きしめたまま首を傾げる。
「うぅん」
あたしは小さく首を横に振ると、佐野くんのことをさらに強く抱きしめた。
佐野くん……
呼びかけたあとに言いたかった、「大好き」という言葉を口に出せずに飲み込む。
佐野くんはかっこいい。
傍にいるだけでドキドキする。
でも、付き合いだしても尚あたしのことをからかってくる佐野くんは、ちゃんとあたしにドキドキしてくれているかな。
あたしばっかりが佐野くんを好きなわけじゃないよね。
いつもあたしのことを「おもしろい」と笑う佐野くん。
町村さんの存在。
あたしは佐野くんが大好きだから、彼に抱きしめられてドキドキしながらもそのことだけが少し気がかりだった。