「まず見本見せるから、そこでよく見てろよ?」
そう言ったかと思うと、佐野くんは水しぶきひとつ立てずに、滑らかな動きで泳ぎ始めた。
余裕のあるゆったりとした手足の動き。
キラキラと光る透明な青い波の中を漂うように泳ぐ佐野くんの姿はとても綺麗だった。
彼が泳ぐのを見ていると、ここが学校のプールであることを忘れてしまいそうになる。
息を飲んで見惚れていると、十数メートル進んだところで佐野くんが顔をあげる。
そして顔の水を手の平で拭うとゆるゆると頭を振った。
「分かった?」
佐野くんに問われ、はっとする。
水の中を泳ぐ佐野くんに見とれて、ついぼーっとしてた。
でもそんなことは言えないので、とりあえず大きく頷く。
佐野くんはそんなあたしをなんとなく疑わしそうな目でじっと見つめると、またゆったりとした泳ぎで戻ってきた。
あたしの真ん前で、水から顔をあげた佐野くんが、濡れた前髪を掻き上げる。
その仕草につい目を奪われていると、佐野くんが突然あたしの手首を掴んだ。
そのまま強く彼の方に引っ張られて、一瞬呼吸が止まりそうになるくらいドキリとする。



