「早瀬先輩、毎日熱心ですね」
振り向くと、あたしの隣に町村 奈緒が座っていた。
「あ、あたし、邪魔かな……」
「いえ、全然。そんなことないですよ」
町村さんは大きく首を左右に振ると、あたしを見上げるようにしてにっこりと笑った。
「翠都、早瀬先輩が見てるときはやたらとはりきってますから。わかりやすいくらい」
町村さんは笑顔でそう言うと、佐野くんのほうに視線を向けた。
「あのとき、翠都の一番はあたしだって思ったのに」
佐野くんを見つめながら、町村さんがぼそっと呟く。
「え?」
それって、どういう……
町村さんの言葉に、すっと背筋が冷たくなる。
けれど、不安な面持ちで町村さんの顔を振り返ったときに、彼女はもう佐野くんを見てはいなかった。
「あと少しで練習終わりますね」
町村さんが手元の時計に視線を落とす。
それからしばらくして、顧問の市川先生が練習終了の笛を鳴らした。