「そっか。じゃぁ行ってらっしゃい。いいなぁ、帰りは佐野くんと一緒でしょ」


千亜希の「いいなぁ」が、なんとなく本気で羨んでいるように聞こえる。

あたしは苦笑いを浮かべながら千亜希に手を振ると、プールへと急いだ。


プールに着くと、もう水泳部の練習は始まっていた。

あたしはそっとプールサイドの見学用ベンチに座ると、佐野くんを探して視線を動かす。


プールの中を一際綺麗なフォームで泳ぐ彼は、すぐに見つかった。

佐野くんの泳ぎを見つめていると自然と口元が緩む。


持参したフェイスタオルを日除けに頭から被ってじっと見つめていると、プールを何往復かして水面から顔を出した彼があたしに気がついた。

笑いかけて小さく手を振ると、彼もにこりと笑い返してくれる。

その笑顔が、プールサイドのあたしの胸をきゅんっと強く刺激した。

再び泳ぎ始めた佐野くんを飽きもせず見つめていると、すっと誰かが隣に座る気配がした。