透明な青、揺れるオレンジ



「だけどなぁ、佐野……」

「イチ先がプールサイドから指示を出すより、俺が直接教えた方が早瀬も泳げるようになると思うよ?」

市川先生は渋い顔でしばらく佐野くんを見つめたあと、やっぱり渋い顔をしたままで頷いた。


「まぁいいか。佐野がそう言うなら教えてやれ」

それから市川先生が、あたしの方を見る。


「早瀬、佐野は去年は自由形で県大会にも出場した選手なんだ。泳ぎ方のコツを教えてもらえ」

「え……!?先生?」

「泳げるようになったらテストするから、頑張れよ」

市川先生はあたしにそう言うと、違うコースで練習している水泳部員の泳ぎを指導するためにプールサイドを歩いていった。


「じゃぁ、練習始めるか」

振り返ると、佐野くんがにやりと笑う。

その不適な笑みを見て、あたしは何だか不安になった。


本当に泳げるようになるの――?


そう思いながら、佐野くんを見つめると彼はプールの中に肩まで身体を沈めてあたしを振り返った。