ゆったりと手足を動かして泳いできた佐野くんは、あたしの傍までくると顔をあげて、水を払うようにゆるゆると首を振った。
いつか見たときと同じように、オレンジ色の髪の先から水の粒がキラキラと飛ぶ。
「早瀬、お前の泳ぎはバタ足からして全然なってない」
佐野くんが濡れた髪を両手で掻きあげながら、あたしを見てにっこりと笑う。
「俺が教えてあげようか?」
「え!?」
あたしに向けられた、綺麗な笑顔。
さっきあたしをバカにしたときとは違う、優しく誘うような甘い声音に、胸の奥がキュンとした。
佐野くんが教える――?
「佐野!お前だって練習があるだろ?」
あたしが佐野くんを見つめながらぽかんとしていると、プールサイドに立つ市川先生がそう言った。
「あるけど、俺は今年の県大会の予選選抜試験は受けれそうにないし……ちょうどいいリハビリになるよ」
佐野くんが、市川先生を見上げて少し淋しそうに笑う。
リハビリってなんだろう。
不思議に思いながらどこか淋しそうな佐野くんの横顔を見つめていると、市川先生が渋い声を出した。



