「じゃぁ、あとはよろしく。イチ先」
佐野くんが手を振ると、市川先生に手招きされてプールサイドに足を踏み入れた町村さんが振り返った。
「あれ、翠都帰るの?」
「あぁ。今日は自主練だし、このあと用事あるから。詳しいことは全部イチ先に聞いて」
佐野くんはまともに町村さんの方も見ずにそう言うと、あたしの方に歩み寄ってくる。
身勝手にもあたしは、そのことにほっとしていた。
「早瀬、ごめん。待たせて」
「うぅん、全然」
佐野くんに笑いかけたものの、ふとプールサイドから注がれる視線が気になってそちらに目を向ける。
すると、町村さんが大きな目でじっと佐野くんの方を見ていた。
驚いて町村さんを見つめていると、佐野くんからゆっくりとずらした彼女の視線があたしへと移動する。
あたしと目が合ったことに気づいた彼女が、口元に笑みを浮かべる。
その表情はやけに挑戦的で、あたしは思わず小さく身震いをした。