あたしはそれ以上佐野くんと会話するのをやめると、練習を続けるために彼から顔をそむけた。
そして、水に顔をつけるとプールの床を蹴って泳ぎだす。
でも少したつと身体が足からどんどん沈み始めてしまって、あたしは床に足をついた。
「ぷっ……」
水から顔をあげたあたしの耳に、佐野くんの吹き出す声が届く。
あたしは振り返って佐野くんを睨むと、もう一度泳ぎだした。
だけど、やっぱり少し進んだところで身体が沈み始めて足をついてしまう。
必死で泳いでも、ゴールになるプールの壁は果てしなく遠くてため息が出た。
「早瀬。ちょっとそこでストップ!」
あたしが頑張ってもう一度泳ぎだそうとしたとき、後ろから佐野くんの声がした。
今度は一体何!?
怪訝に思って振り返る。
すると、佐野くんがコースを仕切るロープの下をくぐってすーっとあたしに向かって泳ぎ始めた。
泳いでくる佐野くんのフォームはやっぱりとても綺麗で思わず見とれてしまう。



