頭上に現れたその笑顔を、しばらくぼんやりと見つめる。
「佐野くん」
小さな声で名前を呼ぶと、彼があたしの腕をつかんでぐいっと身体を引っ張り上げた。
「大丈夫か?」
彼の問いかけに、さっきまでの膝の痛みなんて忘れてこくんと何度も頷く。
彼はしばらくあたしの顔をじっと見つめたあと、口角をきゅっと引き上げた。
「人波の中でこけるなんて、どんくさいやつ」
「だって……」
佐野くんのこと、探してたから……
反論しようと赤くなったまま唇を尖らせると、彼の手の平がふわりと頭の上に落ちてきた。
あたしの頭を軽く撫でて、彼がにこりと笑う。
真っ直ぐに向けられた彼の笑顔が、あたしの胸をきゅんと強く刺激する。
「気をつけろよ」
彼は優しい声でそう言うと、顔を真っ赤にして頷くあたしとその横で呆然としている千亜希を残して、友達と共に歩いていった。
残されたあたしに、今度はその場にいる生徒達の羨望とひやかしの混ざった視線が注がれる。
でもあたしにはそれらの視線を一心に受けて恥ずかしがっている余裕なんてなかった。
彼の笑顔と、頭を撫でてくれた手の余韻が全く消えそうにないから。