「沈んでるように見えても早瀬だって必死で頑張ってるんだから、それを素潜りはないだろ」
市川先生に微妙なフォローをされたあたしはますます恥ずかしくなり、赤面してしまう。
佐野くんはコースを仕切るロープから身を乗り出すと、そんなあたしの顔をじっと見つめた。
水泳キャップをはずした佐野くんの鮮やかなオレンジ色の髪の先からは、水の粒がぽたぽたと滴り落ちていて、あたしを見つめる整った顔は何だかとても色っぽい。
佐野くんに見られていることに耐え切れなくなって目を反らすと、彼がにやりと笑って言った。
「早瀬なんて、いかにも速く泳げそうな名前なのに、かなづちなんだ?」
「そ、それを言うなら佐野くんの方がいかにも速く泳げそうな名前じゃない。下の名前、翠都って言うんでしょ?名前どおり、スイスイ泳いでるもんね」
思わず言葉を返すと、佐野くんがキョトンとした顔であたしを見つめ返してきた。
「俺の名前知ってんの?」
「だって、有名なんでしょ?」
と言っても、あたしは千亜希から聞くまで知らなかったけど。



