「ごめんな、待たせて」

「うぅん、適当に時間潰してたから」

「これ、待たせたお詫び」

笑顔で首を振る早瀬に近づくと、俺は更衣室を出たあと購買で急いで買ってきたオレンジのアイスキャンディを彼女に差し出した。


「ありがとう」

それを受け取ろうとした早瀬の手が、俺の手と軽く触れ合う。

その瞬間、彼女が恥ずかしそうに目を伏せた。

早瀬の反応を内心嬉しく思いながらも、俺は平静な顔をして彼女の隣に並ぶ。

プールのフェンスに軽く背中を凭れるようにして立つと、アイスキャンディの袋を開けた。


「今日はあたしがこれ買ってきておけばよかったな」

アイスキャンディにかぶりついたとき、隣で袋を開けた早瀬が目の前でそれをくるりと回しながらつぶやいた。


「何で?」

「佐野くんが選抜試験に受かったお祝いに。ほんとにおめでとう」

早瀬が嬉しそうににこりと笑う。

その笑顔に胸がざわつく。

俺は彼女からさりげなく視線を逸らすと、アイスキャンディをガリガリと囓った。