結構進んだ。
そう思ったところで、プールの床に足をつくと勢いよく水から顔をあげる。
だけどそこには困ったように苦笑いする市川先生の顔。
振り返ると、あたしはスタート地点から一メートルくらいしか進んでいなかった。
あんなに必死で泳いだのに……
無駄に体力だけを使った自分が悲しくなる。
「イチ先!今日の補習は、素潜りの練習?」
落ち込んでいると、どこからかそんな声がした。
素潜りって。
あたしの泳ぎ、もしかして泳ぎにすら見えてなかった!?
声のした方を振り返ろうとしたとき、市川先生が眉を顰めて牽制するような低い声を出した。
「佐野!」
佐野……?
佐野ってもしかして……
そう思って隣のコースを振り返ると、佐野 翠都がコースを仕切るロープに腕をのせ、あたしの方を見てにやにやと笑っていた。
あたしの無様な泳ぎ、佐野くんに見られた……
彼の綺麗な泳ぎを思い出すと、その無様さが恥ずかしかった。