「私ね、家でお母さんに……暴力……振るわれてるんだ。
3年前にね、私のお父さん……私たちを捨てて出て行ったの。
それが原因で、お母さんには八つ当たりされてて……。
……お母さんからお父さんのことを知らされた時、「嘘だ」って思った。
「嘘だ」って、思いたかった。
だけどお母さんは泣いててね……「ああ、本当なんだ」って思ったの。
私も悲しかった、苦しかった。
だけど、お母さんが一番ツラいと思うから……私はお母さんを支えようって決心したの。
「私は絶対お母さんを裏切らない」
「私は絶対お母さんを捨てたりなんかしない」
そう強く思った。
お母さんを支えなきゃ、私がしっかりしなきゃ……そうじゃないと、私まで泣いていたらよけいに家は暗くなってしまうから……。
私はお父さんのことを弟の秋斗にちゃんと話そうって決めたの。
でもいざ秋斗を前にすると……言えなかった。
私より小さいこの子に……私でも悲しい事実を、受け止められるのかなって……。
受け止めきれなくて、悲しい思いをしてほしくなくて……嘘をついたの。
「お父さん、仕事で帰ってこれないの?」って聞かれて、そういうことにしてしまった。
私だったら家族に、こんな大事なこと秘密になんてされたくない。
どんなに悲しくても、どんなにツラくてもあとから知る方がもっともっとツラいに決まってる。
だからどんなことでも私だったら秘密にしないで言ってほしい。
なのに……なのに、自分がされたくないことを、弟にしちゃった……。
そのうえ「お父さんが帰ってくるまでお母さんは私たちで支えようね」なんて……。
お父さんは帰ってこない。
この3年間ずっと帰ってきてないのに……今更帰ってくるはずない。
だけど、あの時は「帰ってくるかもしれない」なんて思って、勝手なことを言ってしまった。
最低すぎて、情けない……。
学校では友達だった人にいじめられるようになって……
言い返せばいいところも言い返せなくて、怖くて怯える毎日で……
弱くて何もできない自分が情けなくて……もうどうしたらいいのかわからなくなっちゃったの。
家にも学校にも、私の存在は無意味な気がしてた。
正直、お母さんの八つ当たりにはもう耐えきれそうになくて……
いじめられるのももう嫌になって……
すべてに限界だった……。
だけど、優陽に出逢って気づいたことがあったの。
私は、家族を裏切ろうとしてたんだって。
秋斗には本当のことを言わないで、お母さんには「捨てない」って言ったのに私は死のうとした……。
お母さんにも、嘘をつくところだった……。
秋斗とお母さんを捨ててしまうところだった……。
お母さんに約束したのに……なのに私……。
「楽になれるかも」なんて考えて……苦しいのは私だけじゃないのに……。
自分が情けなくて……。
自分のことしか考えてなかったのが……情けない。」


