俺はいつものように眼鏡をかけ、無駄に高い身長に苦々しく廊下をわたる。
 用事がなければ、会うことさえ皆無な三階の教室。同じ学年で階が違うことをここまで恨んだことはあったろうか。

 すれ違うとすれば、二階のこの階段のみ。

「でね、でね! 希乃来くんはどんな子がタイプ?」

 はいはい、アイツがまともに女子と話すわけないだろ? お疲れさまや。

「俺、一応女……。ま、まぁ、でも強いて言うなら、自分より小さい子可愛い子が……て、皆俺より小さいんだったな。全員可愛いよ」

 教室の前で群がる女子のなかに男子制服を着た奴が一人。
 三階に上る手前で足が止まってしまった。

「う……わ。めちゃ、カッコイイ……」
「今ので惚れた人正直に挙手」
「俺はかっこよくもなんともない__」
「希乃来くんはやっぱり、私たちに守られてるべきだよ! こんなに麗しい人を汚されたくない!」
「そうだよね! 高嶺の花的な存在だけど、一匹狼じゃ危険だらけ」
「うんうん。ファンクラブ内では掟があるから安心しできるけど、それ以外で盗撮とか犯罪まがいなことするひとも少なからずいるらしいし」

 "守られてるべき"と聞いて頭に血が上り、登るのをやめて希乃来のところへ歩く。
 
「ああ、あの隠れきれていないあれか」
「え?! 盗撮されてる自覚あったの?!」
「毎回、御嬢様みたいな清楚な子が払ってくれるんだ」
「その人がファンクラブを牛耳る会長だよ!」
「なんでも、希乃来くんからの信頼が厚いって、周りの承諾と自信に満ちた会長の顔とか、あの光景とかで納得するみたいなの」
「私その時に限っていないのぉぉ」
「あの光景?」
「会長に感謝の印に抱き締めてるあれだよ!」
「ああ! "ありがとう"って言うやつ!」

 足が止まる。俺は止めてもいなかった。彼女らの言う"会長"に任せたのは俺もだ。希乃来の気分を害さなくて方法は、たくさんあったのに。
 結局俺の臆病な心のせいで、割れ物を扱うようにしてしまった。

(強くなれって言ったの誰だよ……)